【レビュー】日本語の文体・レトリック辞典(中村 明・著)

今回ご紹介するのは『日本語の文体・レトリック辞典』(中村 明・著/東京堂出版)

先日の記事では佐藤信夫著の『レトリック事典』のレビュー記事を書いたので、本書と比較した上でのレビュー記事を書いていきたい。

日本語の文体・レトリック辞典
(総ページ数は472頁)

『日本語の文体・レトリック辞典』と『レトリック事典』の違い

先日の記事で「レトリック事典は辞書というよりも、最初から最後まで全文読破したい専門書」という風にご紹介した。

『レトリック事典(佐藤信夫)』小説書きの辞書レビュー
レトリックを学問として勉強するのであれば、これが最強!と太鼓判を押せる事典がある。 今回は大修館書店より出版されている『レトリック事典』(佐藤信夫・佐々木健一・松尾大、執筆)をご紹介したい。 (総ページ数は815頁) 販売価格が税...

それに対し、本書は辞書としての活用がメインとなる。レトリックやその関連用語が一通り網羅されており、用例と解説もコンパクトにまとまっている。

レトリックを体系的に深く学ぶのであれば『レトリック事典』

レトリック用語を検索するのであれば『日本語の文体・レトリック辞典』

と使い分けができると思う。

『日本語の文体・レトリック辞典』はどういう人におすすめ?

修辞技法を学習される方、それから文体研究に重きを置く書評ブロガーの方、文章術指南をするライターの方に本書はおすすめできる。

ただ、用語についての事前知識がある程度なければ、目的の単語に辿り着けない。

例えば「《嬉しい悲鳴》ってなんていうレトリックだったっけ?」と気になったときに、(たぶん、濫喩だとか対義結合だとかのグループだな……)と検討がつかなければ、なかなか《撞着語法》の答えを引き当てられない。

もし自分の知らないレトリックについて調べたい場合、それが「配列」「反復」「付加」「省略」「間接」「置換」「多重」「摩擦」の、どの原理に基づくレトリックであるかアタリをつけ、本書巻末のレトリック体系一覧から探りを入れていく形になる。

その意味において、本書は中・上級者向けと言える。(なお、見出し語は五十音順に並んでいる)

結論を述べると、本書は《小説を書く人》向けというよりかは、《文体研究や文芸評論をする人》向けの辞書であるように感じられる。

小説を書くのに本書は不要か?と問われれば、絶対にそうだとは言えないが、少なくとも本書を役立たせるのはけっこう難しい。

実際に「彼女は優しく残忍な性格だった」と描写をするときに、こうした表現が《オクシモロン/対義結合》にあたることを知らなくても、ふつうに表現技法を自分のものとして小説を書くことはできる。

「これはこういう名称のレトリックですよ」という知識は、小説を書くよりも、文芸評論をやる際に役立つものだろう。

初期学習では辞書よりも入門書籍がおすすめ

「レトリックの知識は深めたいけれども、細かい分類や専門用語まで知っておく必要はない」という方には本書よりも下記の入門書をおすすめしたい。

以上、どちらかと言えば消極的なレビューになってしまい恐縮だが、レトリック辞書として本書はとてもよくまとまっている。

関連語・類義語・対義語、それから外来語・原語のガイドが丁寧で、検索しやすい。使っているうちに知識が自然と増えてゆくことと思う。

寝る前とかにぱらぱらとページをめくって例文を読んでいるだけでも面白い。

巻末の『日本語レトリック体系一覧』は非常に分かりやすくレトリックが分類されている。

なんにせよ私自身が『日本語の文体・レトリック辞典』を使いこなせるよう、精進していきたい。

(了)

今回の紹介書籍

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当記事の執筆者
深見クラゲ

研究対象は《消失アメーバ》
本質は消された言葉にこそ宿るとし、文章を徹底的に削る創作手法を好む。
「作者と作品は切り離される。自己消失によって物語は作られる」を信条とする。

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